何時しか父親が
霞靄と姿を消し

何時しか訪れ
母の傍に佇む知らない男

耳をふさいでも
壁越しに聞こえる
生々しい音に

こみ上げるものを必死で噛締め抑え
滴る滴は 血と涙と

あんなものは母ではないと
逃げるように住み慣れたはずの
知らない家を飛びだした

気付けば夜の町
蟻の塔に灯る光

寂しいの と呟けば
虚空より伸ばされた腕

うつろな瞳には虚偽も計れぬ
紫の空で銀の月が鮮血を滲ませる


七色の夢の果て
醒めれば灰色の雨模様

傍らに眠る体躯
斑に濁る記憶と心

闇色の無意識が瓦礫の欠片握らせて

錆び枯れたような廃屋の中
乾いた涙が再び伝う

いまや空も地も赤く染まり
この世が汚れた潮にまみれていく

ひとり 私は石を積む
母の為 男の為
墓石の塔を立てる

最後の石は自分のもの
脚に縛り体を宙に浮かべる

水しぶき
最期に見たのは
波に乱れ溺れ揺る満月







エレジィ









2007/5/5