蒸気帰還者





空を見上げてつく息は
何にも代え難い色をしていた
空の一部になるために長く
とけるように 長く
息をはきだしていたけれど
みにくい体は地上で場所をとりつづける。

せめてこの息だけでも雲の一部にならないだろうか。
空のかけらにならないだろうか。


*


蒸気を吐き出すケトルはちいさな火山のようだった。

蓋をするのを忘れていたために 取手はもはや素手ではつかめないだろう。

ふきんで取手をつかむ
or
横から蓋をする

or

冷めるまで待つ
君の怒りを鎮めるには どの方法がいいんだろう。

取手に触れられるかすらわからない。


*


談笑していた粒が 仲間と寄り添って天井から離脱する。

僕の上に降ってくる。

人も雫も同じだ。

他人の集団が寄ってきても冷えるだけだ。


君はそういって俯くけど
その冷たい雫は君をあたためるための浴槽から生まれたのにね。


*



もう宛てる先のない手紙だ。
結露した窓に息をかけて文字を消す。

宛てる先のない手紙だ。

再び白く曇ったガラスをなぞる。

消さずに席を立つ。

次に座る人間は目にするだろうか。


宛名のいらない手紙。










2010/01/21