風が強い。窓が鳴く。電柱が泣く。 火事がふえた気がする。 ここ数年地震もおおい。水害も問題になるし近隣国は不穏だ。 そこで私は金庫を買った。 火事にも水害にも衝撃にも耐えうる頑丈な金庫だ。 ここに大事なものをしまえば良い。 足をしまおう。 歩けなくなっては大変だから。 私は両の足を丁寧に金庫へ入れた。 内臓をしまおう。 腐りやすいというし、生きるために必要だから。 私は腹から出した身を勿体ぶって金庫へ入れた。 腕をしまおう。 これがなければ絵も描きにくいしご飯も食べづらいから。 私は恭しく両の腕を金庫へ入れた。 脳をしまおう。 考えられなければただのガラクタだから。 私は恐る恐る脳を金庫へ入れた。 耳をしまおう。 無音ほど退屈なものはないから。 私は両の耳をかさねて金庫へ入れた。 鼻をしまおう。 においがなければ味わいがなくなるから。 私は鼻を掲げるように金庫へ入れた。 眼をしまおう。 見えなければ景色も楽しめやしない。 私は両の眼を並べるように金庫へ入れた。 災いが怖くて口だけはしまえなかった。 風が強いだろう。 泣いているだろうか。 叫んでいるだろうか。 もう私には聞こえない。 金庫刑 2009/4/26 |