朝 とても早くに起きた朝、彼女は即席の散髪屋になった。 客はひとりきり、かかる音楽はひとりきりの従業員の好きなものだけ。 鋏による執刀が開始された。 彼女は前髪を切りながら、同時に喪われる過去を思った。 こうやって少女だった少しずつ自分を切り刻んで、 いずれ完全に大人になるのだろう。 彼女は喪失をおそれてはいなかった。 しかし確かめるように前髪を切り揃えていく。 横切る水平線は時間の停止を彷彿とさせるような傷痕だった。 オペが終了し、彼女は不可視の血にまみれた手で鋏を置いた。 彼女は大人だった。 切られたのは過去だった。 しかし彼女の目の上を横切るのは、どうしてだろう、 それは少女のにおいがする。 即席の執刀医は長いようでとても短い時間で仕事を終わらせた。 この話はこれでおしまい。 残された何者でもない彼女は身を投げに飛び出すだろう。 街に少女を連れて。 少女の朝 2011/8/2 |