わるくち家の常時。





「やいやいやいやいっ。酒だ、酒もってこ〜いっ。」

今中年たちの間で流行のバーコード頭まで赤くなったオヤヂが、玄関で叫んだ。

「う〜い、よっぱらっちゃったよ〜んよんよん。」
「あんた、もうお酒はやめなよぉ。」

頭にカーラーを巻き、パックで完全武装したお化けみたいな雌ブタ(奥さん)が出てきて言う。

「うるさいっ。オレは酒が飲みたいんだっ。黙ってもってこーいっ。」

オヤヂは怒って言う。

「うるさいのはそっちじゃ、このナマハゲがっ。いま何時だと思ってんだよ、くそがっ。」

階段をおりてきた娘が言った。髪を突飛な色で染めた、ケバい汚ギャルオーラが漂っている。

「誰がナマハゲでぃっ。」

怒るオヤヂ。

「これ、ぎゃる子っ。」

雌ブタは、これ以上怒らせまいと、オヤジの肩を持った。

「ぱぱみたいな、りっぱなバーコードは、世界中のどこを探したって、いないんだよっ。」
「それがイヤだって言ってんだろー!母さんもそんなうざい酔っ払いの肩を持つなよっ。」

そう汚ギャルが言うと、酔っ払いオヤヂも言った。

「その通りだぜ、この雌ブタがっ。てめーなんぞに肩もたれたってこっちゃー、ちっともありがたくねーんだよっ。
 ふん、てめーばっかりブクブク肥えやがって、ちくしょうめ。」

それを聞いた雌ブタは怒り、焼ブタになるほど燃え上がった。

「誰が畜生ってぇ、あんた!言わせておけば、ぬけぬけとっ。」

まさに、戦いのひぶたが切って落とされたのだ。

「だいたい、あんたがこーして家に帰ってこれるのは、妻のあたしのおかげなんだよっ。そのへんわかってんのかいっ!」
「ほんじゃー、言わせてもらうけどな、誰がおまえらをやしなってやってると思ってるんだ!
そこの扇風機も、何故かおいてあるコタツも、お前のはいてる、くさくてきったねぇぱんてぃなんぞも、
このオレの給料やぼーなすのおかげであるんじゃねぇかよっ。」
「ふざけんじゃないよっ。」

雌ブタも負けてはいない。ぶひーっと叫ぶ。

「それもこれも、あたしが一生懸命やりくりしてるからに決まってんじゃないさっ。何さ、あたしのぱんてぃが汚いだってぇ?
 そんなこと言ったら、あんたの10年はいてるぶりーふは何なのさっ。」

驚きの新事実発覚である。しかしオヤヂはひるまなかった。

「オレのは、いいんだよ。ちゃんと毎夜フ●ブリーズしてんだからよぅ」
「え〜、うっそぉ〜〜」

汚ギャルが悲鳴をあげた。

「どうしてくれんだ、あたしのファブリーズっ。ナマハゲのぶりーふくさい●ァブリーズを使ってたなんて、ありえねーっ。
 弁償しやがれ、つるっぱげのつんつるてんがっ」
「おおっ!?オレはまだつるっぱげじゃねぇよっ。みろ、れおなるど村のだヴぃんち爺さんも我が目を疑うほどの美しいバーコードをっ。」

汚ギャル、げっという顔をする。

「どこが美しいんだよっ。だいたい、クミとかエリとかのぱぱは、誰もアンタみたいな頭してねーよっ。」
「なに、バーコードを侮辱する気か!以外にも難しいんだぞ、このあたまわっ。」
「お前のバーコードなんか、レジに持っていったって1円以下なんだよ、クソ野郎。
 きたねぇツラしやがって、お前がオヤジってバレたりしたら、もう学校なんか行けねーんだよっ。つーか、もう生きていけねー。」
「きたねぇツラたぁ何だよ。お前も時代遅れのガングロヤマンバみたいなツラしやがって。メラニン過剰なんでえ、スッパイ顔してぇっ。」
「ふん。あたしのはフロ入ってねーから黒いんだよ。メラニン過剰は母さんでしょー。」

ブタさん、おこる、おこる。

「何いってんだいっ。あたしのどこにシミがあるってーのさ。
 ごらん、ちゃんと毎夜パックしてるんだから、おはだも白くてつるつるで、シワだって目立ってないじゃないさ。」
「なぁにぃ?」

雌ブタは ずいっと顔を突き出す。オヤヂは目を凝らして雌ブタの顔を見た。
そして、うっとうめくと、しっしっとてをふった。

「てめぇ、何がつるつるだぃっ。白いのはパックだけじゃねぇか。おまえ、目がわるくなったな。
 シワなんかは太りすぎてつながっちまったんだろうよ、ったく。ばけもんみてーなツラしやがってよ。
 晩酌もできねーよーなダメな女、いや、ブタとどうして結婚しちまったのかなぁ、おーいおいおい・・・。」

オヤヂはついに泣きだしてしまった。

「情けないわねぇ。おとこのひとが泣いたりしちゃって。」
「みにくい顔がさらにゆがんでるゼ」

オヤヂに2人の女は、痛烈な声をかける。
と、オヤヂはとつぜん、がくりとひざをつき、「ううん」とうなるとバッタリたおれた。

「あんたっ。」
「あ、ナマハゲっ。」

突然オヤヂがたおれたのを見て、さすがの2人も慌てる。

「どうせたおれるなら、生命保険にはいってからにしとくれよぉ。」
「いままであたしから借りたお金、返してからにしてよ。」

ああ、無上。いや、ああ、無情。
雌ブタはオヤヂをおこそうと、むなぐらをつかんでゆすり、汚ギャルはバーコードをすりっぱでひっぱたいた。
と。そのとき。

「ぐー、ぐー。」

オヤヂは寝ていた。

「なんだ、寝てたのか。」

2人のろくでもない女は、ろくでもない男を呆れて見下ろした。

「ったく。はこぶのもめんどーくさいったらありゃしない。安い給料で冷やメシくわされてめーわくしてんのはこっちなんだからねっ。
 ぱーとだって、楽じゃないんだから。」
「じゃ、このまま玄関に放っとけば?」
「そりゃいーわね。じゃ、ぎゃる子。ぱぱにおやすみいいなさい。」
「おっす。じゃ、ろくでもないバーコードのオヤヂ、ぐっどばい。」

ぎゃる子は階段をとちゅうまで歩いて、たちどまった。

「母さん。あたし、あしたガッコー休む。オヤヂのせーで寝不足だし。目のしたクマなんかできてたら、サイテーじゃん?」
「なに言ってんの。授業料がもったいないでしょ!まったく。」
「あと、携帯がとめられたんだけどぉ。」
「なに言ってんの。家にゃー、お金なんてないんですからね!糸でんわ使いなさい!」


わるくち家の、いつもと何ら変わりのない夜は、今日もふけていった。








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2003年5月15日、17日にかきました。
性格曲がってるかもですが、一度でいいから罵詈雑言ばっかの話を書いてみたかった。